2009年 12月 04日
凍える空を越えて |
成田からおよそ11時間半。
カムチャッカからシベリアを抜けて飛行機は高度およそ35000フィート上空を飛んでゆく。
外気温はおよそ−63℃。
隣の白人の男は半袖のシャツで僕はブーツを脱いで靴下で狭い座席に座っている。
窓にはすこし霜が付いている。
シートの後ろのモニターで何度も何度も現在地を確認する僕を、隣の男は不思議に思ったかもしれない。それでも僕は何度もモニターをフライト情報のチャンネルにあわせて今どの辺りを飛んでいるのかということを何度も確認していた。
ここ数週間の嵐のようなスケジュールの中で、ほとんどと言っていいくらい僕には自分を振り返る暇がなかった。
そのヒマを作るためにベルリンに行くのだから、出発までは忙しくてもかまわないのだが今こうして見知らぬ国のアパートの一室でノートをたたいていると、はてどれから書いたらよいものか途方に暮れてしまうのである。
レンガと漆喰の古きよきアパートの部屋に不釣り合いな趣味の悪い卓上のランプと、大家の汚らしい生活の跡に辟易しつつも、まあたかが3ヶ月だしなと自分を納得させてみる。
殺風景な部屋だ。
でもまああまり店を広げても仕方あるまい。
あんまりやるとまた腰が重くなってしまうかもしれないし。
浦安に越してきたのが小学生の頃だったから、もうかれこれ18年あの街に住んでいたことになる。
長かった。
ため息が出てしまうくらいに。
長年閉じ込められていた街を飛び出して知らない異国の地で不安に苛まれてしまいやしないかと思ったが、今朝だって普通に街の店で朝食をとったし、スーパーマーケットで買い物もした。
物価はそれほど高くない。
一回の買い物でだいたい自分が日本でいつも買う分量と同じくらいの価格になった。
買ってきたハンドソープで手を洗い一息つく。とりあえず午前中の仕事はこれで終わり。
あれこれいろいろと考えて、結局ギターは持ってこなかった。
正解だったと思う。
だからどこかで調達しなければならない。
それもまた楽しみなのだけど。
思ったよりもあまり寒くはないけれど、でもダウンジャケットを持ってきたのは正解だった。
知らないうちにけっこう僕は正答率を上げてきているのかもしれないなと思ったりした。
soundscape
by itr-y
| 2009-12-04 22:23
| ベルリン