2010年 01月 17日
Blow it !! |
今日は一日雪が降っていた。
ふわふわと雪の舞うのをアパートの窓から眺めていると、なんとも不思議な気分になって寝坊したこともすべて日曜日だからいいやと自分を納得させてみた。
しばらくコンスタントに更新できていたのはある程度生活サイクルもつき始めて、こまごまと活動するようになったからだ。朝飯前になるべくたくさんの仕事がこなせるといい。
全然関係ないけれど、朝飯前っていうのはたぶん胃腸の弱い日本人だからこそある言葉なんではないかなとときどき思う。
起きて顔を洗って畑を見に行って、ちょっと作業して一段落する頃にはおなかもすいているという案配に、胃腸が完全に目を覚ますまでに必要な仕事だったんじゃないかと思う。
胃腸のために早起きしよう。
そうしよう。
日曜日と言えばたいてい近所のマウアーパークのフリマまで出かけることが習慣になってしまった。お金がなくても楽しめるところと言えばそこぐらいしか思いつかないのである。つくづく近所で良かったと思う。
ひょこひょことあっちこっちの店をのぞいてまわると、古いハーモニカが置いてある店があった。ハーモニカと言えば実はドイツなのである。HOHNERという古くからの名ブランドがあって、各種ハーモニカやアコーディオン、鍵盤ハーモニカなんかを昔から作っている。
そんなHOHNERのトレモロハーモニカが置いてあったので気になって値段を訊いてみたら、60ユーロと言われてしまった。これは新品で買っても90以上はする品なんだ、と店の親父は言ったが、新品で90ユーロなら新品買うだろふつうと思って店を後にした。こんな汚いハーモニカに60とかあり得ない。60セントなら買ってやってもいいが。
しかしそこの店にはなかなか珍しいハーモニカがたくさん置いてあったので、なかなか退屈しなかった。みんな貧乏だし、生活がかかっているのでなんとかすこしでも高く売りつけたいのだ。だもんで時々常識はずれな値段を口にする。
すまんおっさん。それはジャンクなんだ。音が出てもジャンクなんだよ。わかるかい。
僕はこっちに来ていつでもどこかでプレイできるように実はブルースハープをひとつ買っていた。
MARINBANDという昔からのHOHNERの1ブランドである。以前は日本でハープを買うときは,その名もズバリ、ブルースハープ(BLUESHERP)というのが¥2400くらいでやすく買えたのだけれど、ここ数年で見る見るうちに値上がりし、価格改定の結果安かったBLUES HARPのほうが¥3400近くになり、MARINBANDのほうが3000くらいで求めやすくなってしまった。
なんてこったい。
仕様も僕がそれまで使っていたものとは若干変わり、MARINBANDは上下のカバープレートのデザインが簡素化され、ボディがウッドなんだけれども見えるところが黒く塗りつぶされてしまった。塗りつぶすということはそこに見えてはならないものがあるからで、たぶん合成材かなにかに変わってしまったんだろう。
そのかわりMARINBAND DELUXEなるグレードが発売され、今までの仕様のものはおそらくそこに位置されるようになったみたいだ。みたいだと言うのは買ってないからなんだけれども。
とにもかくにもそういうやれやれな状況になってしまっているので、安くてまだ使えるものがあればフリマでと思ったんだが、ダメだった。まったくドイツもコイツも金金金かい。
あきらめて帰ろうとすると、フリマ会場の脇にあるステージから何やら演奏が聴こえてきた。
ギターの弾き語りなんだけど、けっこう上手だ。フリマに来ている人たちもみんな足を止めてコーヒーやクレープなんか片手に椅子に座ってのんびりと見ていた。
僕はステージの脇からひょこっと顔を出してステージをのぞいてみた。
帽子をかぶったお兄ちゃんが何やら歌っている。オリジナルソングらしく素朴でかつスタイリッシュな感じ。ジャックジョンソン系と言ったらいいだろうか。チャキチャキとカッティングを交えながら小気味よい演奏をしていた。
次の曲で最後ですとMCをしてお兄ちゃんは言った。
「Hoochie Coochie Man」
マジで?
目の前にステージ。やってる曲はHoochie Coochie Man。ポケットにはAのブルースハープ。
う〜む...。
僕は間奏に入ったところでこっそりとナイフを取り出すようにハープを取り出し、お兄ちゃんに見えるようにして「入ってもいいかい?」と目で合図してみせた。
お兄ちゃんは「オッケー」と頷いたので躊躇なく思い切り吹き始めた。
ためらうと音が濁る。なるべく目を閉じて周りを見ないようにして音に集中した。幸いギターのチューニングが正確だったおかげですっと入って行くことができた。意外にもフィットしたのでお兄ちゃんはステージに上がってこいとマイクで叫んだ。
いつの間にか集まり始めた人たちがみんな「Yeah!!」とはやし立てた。
マイクを通してハープの音は会場全体に響き渡り、雪のドイツの郊外の公園にシカゴの旋律が溢れた。どのくらいの人が集まっていたのかはわからないけど、歩いていた人たちはけっこう足を止めて見てくれていたと思う。
ベンドとフェイク、そしてタンギング。持てる限りあらゆるトリックを使って絵の具を叩き付けた。ときどき息が切れてしまったけれど、吹いていて楽しかった。
彼の様子を見ていつでもさっとステージから降りられるようにしていたのだけれど、彼は僕にソロを4回か5回くらいまわしてくれた。切りのいいところまで吹いて彼とアイコンタクトしてソロを切り上げてぺこりと一礼をし、さささとステージを降りた。
たくさんの人が拍手をしてくれた。
ステージが終わった後で彼にありがとうとお礼をすると、「こちらこそ、ありがとう。これはお礼だ」と言って自分のCDをくれた。段ボールを二つ折りにして輪ゴムで止めただけの質素きわまりないCDだ。
正直これはいらねえなと思ったのだけれど、「ありがとう」といってもらっておくことにした。
「いつも毎週ここでやってるの?」
「そうだね、こことまああとはいろいろその辺をうろついているよ」
なんだかあんまり詳しくしゃべるのを面倒くさがるタイプのようだった。僕もあんまりステージの後にだらだらと話すのは苦手なのであらためてお礼を言ってその場を後にした。
いずれにしても演奏して報酬をもらうというのはなんともいいもんである。
しかし帰ってみてCDを聴いてみてびっくりした。凄まじくクオリティが高いのである。最初は再生できるかなとかそんなことを考えていたのだけれど、音質が市販のCDそのものといった感じである。しかもitunesが彼のアーティスト名とアルバム名、曲名まで表示した。驚きながらも一曲目を聴いていると満足してしまってそのまま紅茶を飲みつつ部屋でのんびりと聴いた。
へえ、けっこう実力者だったんだ。
調べてみると彼のオフィシャルページがあった。そしてその上アマゾンでもCDを販売しているそうなのである。プロなのかもしれない。MySpaceにアカウントがある人は調べてみるとたぶんけっこう簡単に彼に行き当たると思う。
なかなかお勧めの音だ。
ポケットに入れたブルースハープがくれた休日。
Rob Longstaff Official Web Site
soundscape
by itr-y
| 2010-01-17 20:23
| ベルリン