2010年 06月 14日
残された物達の国 |
その日はちょうど雨で東北道を走っている間、ずっと雨が降ったりやんだりを繰り返していた。行きに同じ道を走ってきたはずなのに、乗る車が違うとずいぶんと景色も違うものである。
視点が低いといろんなものが見えててくる。こういう時スピードを出しすぎない車はいい。他の車に邪魔にならないようになるべく左側をメインに走り、速度制限をかけられているトラックの後ろを走った。急がない。
行きがけに満タンにしていたガソリンは浦安に着いても半分ぐらいしか減っていなかった。一人しか乗っていなかったということもあるけれど、300キロ以上ある道のりをこれだけで走れたことに一人で驚いていた。もともとミニは燃費のいい車で1000ccとなるとなおさらである。話には聞いていたけれどちょっと驚いた。
久しぶりに会った祖母は80を過ぎてもなお元気だった。この年で初めての一人暮らしがはじまって、ちょっと寂しそうではあるが、近くに叔父もすんでいることだし、まあなんとかやって行くだろう。ドイツ式におばばとハグをしてまた来るねと言って出発した。
半年ぶりにも関わらず車は無事にエンジンがかかった。
最初は「クシシシシシ....」と言っていたけれど、二度目にアクセルを踏み込みながらキーを勢い良くまわすとブロンと心地よい音をたてた。久しぶりに乗った車は半年もほっておいたのが嘘のようにそのままだった。タイヤに付いた泥を落とし、洗剤で洗い流してきれいにする。乗ってみてブレーキが唯一おかしいことに気がついた。
踏み込んでもなんだかスカスカしていて効きにくいのである。おかしいなと思ってブレーキフルードのボックスを見てみるとなんと恐ろしいことにブレーキフルードがすっからかんになっていた。危うくブレーキの効かない車に乗る所であった。その足でホームセンターに向かい、フルードを買ってきて補充した。
以前、買ったばかりの頃にもやはりフルード漏れを起こしていて、そいつの修理に6万もかかってしまったのだけれど、きちんと直っていなかったみたいだ。こういう時はショップにクレームを入れてもいいものなんだろうか。場所が場所だけに、もしも車をよく知らない人だったりしたら危なかった所だ。
祖父の墓は墓苑の中腹にあった。
昔買った時はずいぶんと後ろの方だったのに、いつのまにかずいぶん上のほうになっちゃったね、とばあさんが笑っていたのを思い出した。場所を忘れてしまったというので仕方なく事務所で墓の場所を訊いた。一人、ポンコツに乗ってぜえぜえと坂道を上がってゆく。
まだ新しいシンプルな墓だった。見覚えのある家紋が彫られている。持ってきたバケツに水を汲み墓を磨く。本当は柄杓かなんかでぱしゃっと上品に水をかけなきゃいけないんだろうけれど、誰もいないのをいいことに僕は一回だけ柄杓を使うとあとはバケツごとバサリと水をぶっかけて洗車するようにじいさんの墓を洗った。曇っていた空も晴れ間が見えて、蒸し暑い中草むしりをした。そして二礼二拍一礼をし、また来るねと言って山道を降りた。
残されたものたちはいつになったら気が済むのだろう。自分達が墓に入った後だろうか。山の中に残された朽ち果てた古い墓の中のひとつになるまでいったいどのくらいの月日が必要なのだろう。
ゆっくりと車はサービスエリアに入り、僕はエンジンを切ってすっぽりと駐車場に収まった。
soundscape
by itr-y
| 2010-06-14 16:48
| 日常