2010年 08月 11日
How to go |
「オレのエビが死んじまったぜ。誰かが寝ている間にオレの池に毒をまいたんだ」
Robert Johnsonの曲が一瞬フラッシュバックして目が覚めた。
時計は午前5時少し前を指している。外はまだ暗いけれどようやく明るくなり始めている。
ここの所、ずいぶん早くに目が覚めることが多くなった。やることはたくさんあるのだけれど、時間を持て余している。そしてその余った時間を有効に使うことができないでいる。原因はわかっているが、わかったところでどうしようもないこともある。
新しい部屋は日本人とドイツ人の若いカップルの家で、もう一人ドイツ人の女学生だった。カップルの方がだらしのないマイペースな女学生をあまり好きでないらしく、家の中に妙な緊張感がただよっている。そんなに人間嫌いなら部屋なんて貸さなければいいのに。ところで共同生活なんてそう言えばしたことないなと思っていたのだけれど、自分にとってはさほど苦ではなかった。次の部屋に移ることがもうすでに決まっていたということもある。ある程度性格を把握すれば、相手が何を好んで何を好まないかがわかればあわせることは難しくない。ただ、たしかにそれはめんどくさいのだが。
この一週間で僕は久しぶりにいろんな人に会ってきた。以前に良く行っていた店。カフェ。ギターマニアの彼と一緒にたむろしていた中古楽器屋などである。みんなきちんと憶えてくれていた。まあ、そんなに短期間で忘れる人も少ないとは思うが。
日曜には久しぶりにマウアーパークの蚤の市にでかけて、僕は武器の調達をした。ギターと自転車である。結論から言うと自転車はクソみたいな代物だった。そしてギターのほうは厳密に言うとギター自体ではなくそれに取り付けるピックアップだったのだが、これは掘り出し物だった。だから二つでイーブンというわけだ。
LRバッグズのアクティブピックアップは、アコギのPUのなかでもけっこう評判がよく、プロにも愛用されている一品だ。多少値下がりしてきた感はあるものの、今でもオークションや通販では高値で17000円くらいで取引されている。これがピエゾタイプのものと裏から貼付けるタイプのものの2種類がある。僕が購入したのは張り付け型の少し大きめのやつだ。店の人もけっこうアコースティック歴は長いらしく、交渉したら95ユーロのところを80まで下げてくれた。これはお買い得だった。通常2万近くするものが1万を切る価格で手に入ったのである。しかも未使用品だ。これで取り付け用の工賃が浮いた。
翌日、僕はギターとそのピックアップを持ってひさしぶりにミヒャエラおばさんの工房に行った。ここはギターマニアの例の彼が下働きをしている工房で、ベルリン中の多くのミュージシャンのリペアを請け負っている。彼女はウッドベーシストでもあり、ギターのリペアに関する技術をほとんど独学で学んだのだと言う。
ミヒャエラさんにお土産としてかりんとうを渡した。思いっきり怪訝な顔をされたが、まあ土産が受け入れられる確率ってそもそも低いよなと思って割り切る。こんなんだったら持ってこなきゃよかったとちょっと思った。
僕がこっちに持ってきたギターは、一番稼働率の高いアストリアスのE.C. Herringbone だ。天候やコンディションによって音が変わる傾向にあるヴィンテージとは違って、楽器としての精度が高くタフな楽器と言えばこのアストリアス以上のものはない。別のギターを持ってこようかと思ったのだが、やはり勇気がなかった。コイツはいつも僕の中で押さえのバッターなのである。ミヒャエラおばさんはふむふむと楽器を興味深そうに眺めると、ピックアップを箱から取り出しギターにあてがって様子を見ていた。
「金曜日までにはできるわ」ということだった。お代は50ユーロ。取り付け代金としてはやはり無難な所だ。どこに行ってもそんなに料金というのは変わらないのである。
ところで問題なのは自転車の方だった。
ぱっと見、とてもセンスのいいニッケルメッキされたラグ付きの自転車なのだが、コイツがとんだ食わせ者だった。車輪が27×1-1/4という昨今あまり使われないサイズだったのでイヤな予感はしていたのだが、車輪の組み方が甘いらしく凄まじい勢いでガタガタと車体を揺らした。ヨーロッパの街には石畳が多い。とてもじゃないけれどスピードをつけて石畳を走ることはできなかった。
ついているパーツはどれも古く変速ギアはシマノの古いレバー式、唯一ハンドルステムにチネリが使われていて、黄色いバーテープと青のハンドルグリップそいつが全体の印象を引き締めていた。一瞬、普通のロードに見えたのは恐らくフレームがやたらでかいサイズだったからだろう。ようやくまたがれる自転車に乗ったのはずいぶん久しぶりである。昨日はそいつで市内を走り回り、ウンターデンリンデンからブランデンブルグ門、ティーアガルテン、ツォー、カイザーヴィルヘルム教会、ポツダムプラッツ、そしてアレクサンダープラッツと回ってきた。
しかし走っている途中でリムがキシキシ音を立て始めて、ああもうコイツは絶望的にダメだなと思った。典型的な安物買いな感じである。たぶん普通の人が乗る分にはかまわないのかもしれない。しかしこれは自分にはちょっと向かないなと思った。100m走っただけで疲れるバイクなんてちょっとあり得ない。
そんなわけで自転車の件は保留中である。
こういうどうでもいいことで時間がつぶれていくのはいい。とても気がまぎれる。とても平和で、害がない。でも自分は今回はこのドイツの社会にコミットしなければならなくなるだろう。そうしなくてはならない。本格的にそれがはじまる前の準備段階。
How to go.
soundscape
by itr-y
| 2010-08-11 13:19
| ベルリン