2011年 06月 03日
夜と霧の隅で |
地下室にこもる日々が続いている。
古いスツールひとつとマイクスタンド。机はないがちょっとしたもの置き代わりの金網にひっかけるタイプのスチールの棚があり、そこに蝋燭と楽譜を置いて机代わりにしている。
地下室にはビールをケースごと置いてあって、飲みたいときはそこから一本取り出して飲む。ベルリンに住んでいるといろんな方法でビールの栓を開けられるようになる。ライターで開ける人もいればどこか角にひっかけてスコンと抜く人もいる。僕はビール瓶でビールの栓を開けるという方法を教わってそれ以来それで抜いている。金網にひっかけて開ける事もある。またひとつくだらない技が増えたわけだ。
最近、ALESISのVIDEOTRACKなるものを購入した。簡易ビデオレコーダーのようなものである。最近、動画で自分の演奏を配信するのが流行っていて、各社これと同じようなものを作っている。コイツで録画してそのままYoutubeなどにアップできるというわけである。日本の通販で買って送ってもらおうかなと一瞬思ったのだけれど、かえって高くつくのでやめた。ちなみにZOOMからも同じようなのが出ている。どれも基本マイクが二つついていてステレオで録音できるのがいい。
そいつを使って今ずっと歌の練習をしている。
クモとネズミが僕の友人である。なんだかセロ弾きのゴーシュみたいだ。ただしアドバイスはしてくれない。
なんどもなんども繰り返し同じ曲を演奏して歌う。あたまがおかしくなりそうだけど、おかしくなりそうなんて言っているうちはまだまだで、そのうち何も考えなくなるようになってくる。なにも考えなくなるまでやるというのが何をするにしても僕のやり方だった。執拗に同じことをくりかえす。体と思考が切り離される。なにも考えなくなる。
このやり方は単純に技術を習得するにはいい方法だけれど、時々危うい。なにも考えなくなるからだ。事に僕は何か新しい問題に突き当たった時に特に何も考えず取りかかろうとするクセがある。考えると今度は考え込んでしまうからだ。何かにつけて不器用なのである。
昨夜はひどい夜だった。僕はどうも自分の帽子をそこに忘れたらしい。どこにも見当たらないのだ。ここに来る前に日本で買って来たものだ。以前にも帽子をなくしたという話をした覚えがあるけれどそれからそんなに経っていない。明け方にベッドに倒れ込むように横になり、浅く質の悪い眠りにひたる。朝になっても胃のもたれが取れず、午後になるまで起きているのか寝ているのかはっきりしなかった。気持ちが悪い。何度か起きなければと起き上がるもののひどい倦怠感が体をおそう。なにもしたくない。
結局、起き上がってきたのは2時頃で出かけたのは3時頃。いつものカフェに行って手際の悪い兄ちゃんにぱさぱさのケーキとコーヒーをたのむ。いつもの席に座りラップトップを広げる。外がいい天気なのでほとんどの人はテラス席に座っている。店内は比較的空いている。同じように勉強をしている人もいる。いつのまにかこのカフェが自分にとっての安らげる空間になっている。
なぜ人とかかわり合うとこんなに苦しいのだろう。
20代の頃から抱き続けて来た疑問を今さらのように反芻する。まるで避難場所をもとめるかのように僕は一人の空間を探し続ける。そしてそれでもだれかと一緒にいたい。
まいったな、こんなこと書くつもりなかったのに。
ねえ。暗く湿った空間に一生懸命巣を作って、君はいったい誰を迎えるんだい。
soundscape
by itr-y
| 2011-06-03 00:01
| ベルリン