2011年 08月 10日
日曜日の歌姫 |
風が冷たい。まるで夏がなくなってしまったみたいだ。
こっちは今しかし夏を楽しむことよりもまず次の住まいのことを考えなければならない。うかうかしてるとまた去年の二の舞だぞと、こっちのウェブサイトをめくってめぼしい物件を探して回った。一件、遠くはあるけど広くてきれいな、しかもぴったり2ヶ月間の物件があったので電話をかけてみた。女の人の声がした。簡単なやり取りならドイツ語でも出来るようになったけれど、それでもやはり一応英語でもいいですかと訊いて、英語にしてもらう。ウェブページにも英語の表記があったから、たぶんしゃべれるだろうと思ったのだ。しかし相手も英語とは予期していなかったらしく、少したどたどしい感じでしゃべった。
家はまだ借り手がつかないらしい。さっそく明日見に行く約束をする。
鉄は熱いうちに。早く決められることは決めてしまって次の仕事に取りかからないといけない。たくさんやるべきことがある。引き払う準備も、ビザの準備も、帰国の準備も、その他もろもろも。そんな中、明日はおばあちゃんとのタンデムの日なので、日記を書いていかなくちゃならない。最近ではドイツ語で書くことにも慣れてきたので、それほど難しいとは感じなくなってきたのだけれど、それはいつもたいてい同じことばかりを書いているからで、上達しているかと言えば正直言ってさほどうまくなってはいないと思う。
それでも何も書かないよりはいい。いつも使っているフレーズならすらすらと書けるようになってきた。勉強って実はこういうことなのかもしれない。
そんな中、土曜日は友人とBerlinerBierFestivalというビール祭に行ってきて、少しドイツ気分を味わえた。小さい祭かと思いきや、KarlMarxAlleの通りの両側がすべて各地のビールメーカーのブーステントで埋め尽くされる、けっこう大きなイベントだった。何を飲んでいいのかわからなかったので、とりあえず手近なブースででかいジョッキを頼み、乾杯する。あっちこっちで大きな音が響いている。どこのブースにもバンドがいて生演奏を披露している。いろんな国のいろんな音楽が流れているけれど、ドイツの音楽が流れるとみんな大声で歌い出し、最後は長椅子の上にみんな総立ちになって大合唱となる。ドイツだなあ。
この日はまだ寒くはなかった。ちょうど良い気温。肌に心地よい。日本人のグループで飲んでいたのだけれど、途中ドイツ人の若い軍人の子に絡まれて、なんだか流れで一緒に飲むようになってしまい、結局最後まで一緒に飲んだ。気持ちのいい若者だった。22才だという。ガタイもいいし、性格がいいのがよくわかる。たくさんビールをおごってくれたのだけれど、グラスを返した時の代金を「いいよ」と言って受け取ってくれなかったので、こっそりジーンズの後ろのポケットに滑り込ませた。
翌日は例によって掃除だの、なんだのしていたらなかなか家を出れず、結局ギリギリに家を出た。カフェでゆっくりコーヒーを飲むことをあきらめ、フリマにだけよることにした。めぼしいものは特になく、知り合いに会うことも特になく、つまらない気分のままバイトに行こうとしたら、聞き覚えのあるメロディーが聞こえてきた。Beirutの「Nantes」だった。女の子の声。よく伸びる大人びた声だけど、若いのがわかる。相方がウクレレを弾き、それにあわせて歌っている。曲間、時々ウクレレを交代してピアニカなどのおもちゃ楽器を入れる。みんなやはり彼女がうまいことに気づいて足を止めていて,ちょっとした人だかりが出来ていた。僕もその人だかりに混じってひとしきり彼らの演奏を聴いていた。ベルリンのいいところはこういうミュージシャンがたくさんいるところだろう。そしてみんな無名なのだ。いずれ有名になるのだろうか。それは誰にもわからない。でもこうして聴いていることがなによりも幸せなのである。
少しやせたドリューバリモアのような不思議な魅力を持った彼女は、次の曲で最後ですと手短に挨拶をした。最後の曲はオリジナルのようだった。息の合った調子でリズムを刻んでゆく二人。ひょっとしたら恋人同士なのかもしれない。彼女の存在感にみんな魅入っていた。曲が終わり拍手が止むと、みんなゆっくりとお金を入れてゆく。僕はなぜだか少し気が楽になって、軽い足取りでバイトに向かった。
こういうのが音楽だよな。そう思った。
soundscape
by itr-y
| 2011-08-10 09:49
| ベルリン