2011年 08月 27日
enough |
四日後には家を出なくてはいけないのだが、なんとまだ次の家が決まっていない。
困ったなあ。
ひさしぶりに更新しといていきなり大ピンチな訳だが、今日は今深夜になって少し落ち着いてきたので、まあこういう時は文章を適当に書こうと思い立ち、今ここにつらつらと書いている。前にもそういやこんなことあったなあ、進歩してねえなあと思いつつ、焦っても仕方がないと腹をくくっている。本当にしょうがないのである。だって最終的に住人を決めるのは相手なのだから。
ここ最近はベルリンにも蚊が発生してきて、たまにあっちこっち喰われている。蚊なんててっきりいないもんだと思っていたのだが、そんな事はなかった。ただ高温多湿の日本ほど多くはない。さされてもなんかそれほどかゆくない。この辺りはいい事だと思う。蚊の事をドイツではMücke(ミュッケ)あるいは英語と同じくMoskito(モスキト)そしてその他にSchnake(シュネーケ)というらしいけれど、この時期でもない限りはなかなか使用頻度の少ない単語である。
昨夜は同居人の日本人の若い子が帰国するというので、彼のお別れ会に参加してきた。いい加減で軽薄そうに見える彼は(軽薄そのものなんだけど)人を引きつける力があるらしく、たくさんの彼の友人たちが集まって別れを惜しんだ。今日はオールして翌日午後2時の便で帰るという彼に何となくつき合い、そのまま徹夜してしまった僕は、少しフラフラする頭を抑えつつ、やたらと小便と屁の出る徹夜コンディションをなんとか切り抜けていた。
その日はいろいろあわただしい日だった。もう一人の同居人の人とカフェに行き少しお茶をし、その後で楽器屋と文具屋に寄り、文具屋で新しいボールペンを購入した。とても安い水性のボールペンで、書いた後に水気がつくとすぐ滲むのだけれど、書き心地が大変よく、僕は勉強用に非常に重宝している。文字を書くのに気負わなくてもいいというのがいい。楽器は今はちょっと買えないなあと思いつつも、しばらくそこで時間をつぶした。そして買い物をし帰宅。彼と一緒にお別れ会に出かけたというわけである。
中華料理屋で食事をし、そっからバーに行って無駄話をする。とりとめもない話ばかりだ。あまりしらない人たちばかりだったのだけれど、なかなか面白い人もいて、僕はその中の一人に音楽をやる人間だということを見抜かれてしまった。洞察力の鋭い人というのはいるものである。初対面でそう感じたといわれて、それだけで何となくうれしくなってしまった。バカだなあ。
そしてそのカフェバーで飲んでいると、僕はまた思いもよらない人に出くわし、あらためてベルリンの狭さを実感した。広いようで狭いのである。その人は知り合いの知り合いで、今こう着状態にあるひとつの人間関係にひとつの突破口を開いてくれそうな出会いだった。本当にそう効果的になるかはわからないけれど、そうなればいいなと思っている。やはり色々とイベントには首を突っ込んでみるものだ。本当に何が起こるかわからない。
翌日、同居人を見送った後、僕は3時間ほど眠り、そしてまた起きた。そして彼がいなくなったばかりの部屋の壁の塗り直しをさっそくドイツ人の借り主が始めて、にわかに隣が騒がしくなった。何か手伝おうかと言ったら、そんなことより自分の部屋の掃除をしてくれと、ぜんぜん片付いていない僕の部屋をながめながら彼は言った。
奴の言い方に腹は立ったけれど、確かに今やっとかないと当日そうとう慌てるだろうなと思ったので、今日すべて片付けてしまおうとベッド以外のすべての家具を処分した。机や棚は分解してゴミ捨て場へ。フリーマーケットで買ったオンボロスピーカーとPCデスクはそのまま路上に放置した。ベルリンでも特にプレンツラウアーベルグのあたりはいまだに路上に放置しておくと、欲しい人が持っていくという習慣がある。その習慣にならってふつうにその辺にスピーカーを置いといたら一時間後くらいになくなっていた。さすがなのである。
そんなわけで今部屋の中はわりとさっぱりしている。
それでもなかなか捨てられないものもあり、まだまだ身軽になりきれないなあと思うのだ。
目下のところ、一件返答待ちの部屋がある。そこが借りれれば一番いいのだが競争率がすさまじく高いのはこちらも重々承知なので、今のうちに別の候補を用意しておかなければならない。バイト先のひょうきんなイタリア人が「Hope for the best, prepare for the worst!(ベストを目指せ、そして最悪に備えよ)」とよく言う。この言葉は良くできた言葉だと思うのだけれど、僕はよく考えたらあまり今まで最悪の事態に備えた事ってなかったなあと言われて気づかされた。だからいつも最悪の事態に直面していたわけである。当然だ。
ドイツ人の彼は友人を呼んで壁塗りを始めた。ドイツの賃貸住宅は退去時に壁を白く塗り、穴は埋めてきれいにしてから引き渡す決まりがある。別に友人を呼ばなくても同居人である僕に頼めばいいものを、わざわざ友人を呼ぶのである。そして呼んできた友人はしばらく会っていなかった微妙な関係の友人の一人だった。最初は僕も彼女の事をちょっと許せなかったので、彼女が何喰わぬ顔で「Hallo」と言ってもむすっとした顔で「Hallo」と返しただけでばたんとバスルームの扉を閉めた。そして口をゆすいで頭を整えてから自分の行動を少し省みた。よく考えたら関係修復のチャンスなんじゃないのか?
たしかにそうだと思ったので、少し態度を改め話しかけてみた。日本語ペラペラにしゃべれるクセにわざと僕がわからないようなドイツ語で話す彼女にちょっとイライラしたけれど、なんとか持ちこたえた。そして、仕事が終わってからベランダで一服している彼女にまた話しかけた。それまでの軋轢ややりとりがまるでなかったかのように振る舞う彼女に僕はまた少しイライラしていた。そして,下手なことを言うとまた音信不通になってしまうんじゃないかとビクビクしていた。ビクビクしながらイライラしていた。つまり男として最低の状態である。同時にそれは外国人に対する伝統的な日本人的態度でもあった。
でもがんばった。
なんとかふつうに話をするようになって、そして折しも彼女の誕生日だったので誕生日プレゼントをあげた。プレゼントと言っても不要になったものばかりだ。それでも態度が少し和らいで、僕は彼女としばらく近況報告をしあった。せっかくタバコをやめたにも関わらず、彼女がすすめてきたので仕方なく2本ほどつき合った。そうだ、彼女が吸うから吸い始めた節もあったのだ。そうすれば少なくともその間は一緒にいられたからだ。でも、また再び喫煙習慣が復活する事はないと思う。決めた事なのだ。
とにかく、降って湧いた機会をなんとか利用できたような気がした。まだ彼女は僕に対して少し警戒感を抱いていたけれど、それは僕も同じだ。
「また連絡してもいいかな?」
「いいよ。でもしつこいのはイヤ」
イナッフ。
蒸し暑い日。部屋にいるだけで汗が落ちるようなそんな日だった。夜更けになっても気分が落ち着かず、年下の後輩に電話してバーでビールを二本飲んだ。落ち着かなかった。後輩の彼は年下だけれど、職場では先輩だった。しかし若いながらも勘が良く、表向きキャラは明るいもののけっこう内向的な性格を持ち合わせているのでわりと気が合うのだ。
くだらない話ばかりした。くだらなくない話もした。そして僕は帰った。まだ少しとっ散らかってる部屋で眠った。
ああどうするかな。飲んでる場合じゃないんだけどな。
soundscape
by itr-y
| 2011-08-27 23:51
| ベルリン