2011年 11月 15日
A small, good thing. |
帰って来てからはやもう十日が経った。
十日間でずいぶんといろんな人に会い、ひさしぶりに話をしたのだが、あれほど大きな地震の後でもさほどみんな変わってないのに少し驚いた。まあでも一年やそこらで人が変わるはずもない。他ならぬ自分が大して成長してないのだ。そんなに変わることもあるまい。
昨日は晴れてフリーランサーとなり、夫となったカメラマンYの家を訪ねて来た。帰国する前に僕は新しい自転車をヤフオクで仕入れて、実家に届けておいたのだけれど、そいつを使ってはじめてちょっと遠出してみようと思って浦安の実家から世田谷まで行ってみた。距離にして30キロちょっと。往復で70キロくらいだ。以前の自転車なら片道3時間くらいかかった距離が、新しい自転車だと見事に2時間ぐらいで行くことが出来た。その辺はさすがに中古でもロードレーサーなのである。ちょっと迷いながらもこのタイムである。
Yの家はいつもだいたい仕事柄なじみだった場所に近いところにあるので、こじんまりとしつつも閑静で瀟酒な人気スポットに近いところに居を構える。世田谷区なんてのは僕にとって未知の世界なので、なかなか行くことはない。第一遠い。行くのが面倒だ。でも新しい自転車ならそんなことはなさそうである。ちょっと自信を持った。
ひさしぶりに会うYはおしゃれ帽をかぶり、マットブラックに塗装されたビーチクルーザーに乗ってふらっと現れた。いつもふらっと現れるのである。小学校から知ってるけど決して「バーン!」と登場した試しはない。いつだって飄々としてるのだ。二人で自宅に帰る前にスーパーでビールと飲み物を買って帰る。そしてその間、彼がはやくも父親になったという報告を受けた。子供を持ったのは僕らの間で第一号だ。そりゃあめでてえ、とにわか江戸っ子になりつつアパートの階段を上る。毎度のことながら彼はいつも安くてもこじんまりとしたいい家を見つける。玄関をあけると奥さんが迎えてくれた。彼女のことを奥さんと言うのは今まで友人だった僕らには不思議な感じだが、でもまあもう正真正銘奥さんだ。
やあやあただいま、お帰りと、近況報告をしつつ酒を飲む。彼女の方はビールが飲めないのが本当に残念そうだった。僕とYはそんなことは委細構わず飲んでいた。おいしい手作りご飯をいただき、いろんな話をした。彼はスタジオを辞めてフリーになってからと言うものさすがにすぐには仕事が来ないらしく、わりと時間がありそうだった。でもゆっくりしている彼をみるのはなんだかしみじみと嬉しくもあった。ずっと忙しい人間だったのだ。このテーブル自分で作ったんだとか、バジルの苗が増えすぎてさ、だなんて話を聞いていると何となく気持ちが和んだ。彼らの方は彼らのほうでこれからの生活のこととか具体的に考えなくてはならないことがたくさんあるはずだけど、不思議な安定感がそこにはあった。この雰囲気がこの二人の強みなのだ。
発泡酒なんかいくら飲んでも酔わねえよ、と言わんばかりに僕は自転車で来たにも関わらずぽんぽんと空けていたのだけれど、調子に乗っていたら最後は頭が痛くなってしまった。やれやれなんてこった。僕は10時前にはお暇し、途中までYに送ってもらって自転車で帰った。奥沢の駅まで見送ってもらって、さて自転車で漕ぎ出そうとしたら前輪の空気が抜けていた。こういう時に限ってポンプを忘れているのである。すぐそこにある交番に行って空気入れを貸してもらった。「こういうタイプは大丈夫かなあ」というおまわりさんに「いや、口金が同じだから大丈夫です」と答える。大きくパンクしていなければこれで2時間は持つはずだ。だめだったらまた交番で借りよう。
自転車で行くことのメリットは、帰り道こうしたアクシデントに出会うことだ。僕は不思議とこうしたアクシデントを楽しんでいるところがあるらしい。少しどこかひやひやしながら夜の街に漕ぎ出した。日曜の夜である。車は少ない。環七、山手通り、目黒駅、桜田通り、芝公園、東京タワー、海岸通。
心拍数が上がるに連れてひどく頭が痛んだ。だけど止まらなかった。昔からこうやってコンチクショウモードになる時がある。でもそれも今夜は楽しんでいた。信号待ちでおっさんと目が合う。瞬間、お互いそらす。月島のもんじゃ屋の前でお帰りトークをしている人がいる。僕は相生橋を越える。明日は面接ダア、めんどくせえなあ。2時間かけて思考はゆっくりと落ち着いてゆく。帰る頃にはクタクタになっている。体力的にというより、椎間板的にだろう。ローディは腰に来る。
お金はないけれど精神的に安定しているのはたぶん実家にいるせいだろう。あいかわらずのほほんと暮らしている父と母を見ていると、この人たちのこどもなんだからまあ、がんばってもしょうがないところも多々あるよなあと、はやくもDNAに責任を押し付け始めるのだった。
部屋の片付けもせねばならない。月末のTOEICにむけての勉強も、持っているギターたちのメンテも。まだ帰って来てから会っていない残りの人達との面接は、とりあえず最初の収入が入ってからになりそうである。
soundscape
by itr-y
| 2011-11-15 00:48
| 日常