2011年 12月 07日
Punk Jazz |
新しい仕事が始まって3日が早くも経過した。僕は職場がみんなわりとカジュアルなのをいいことにスーツからやや緩めのジャケットとワイシャツとチノパン、ノーネクタイという出で立ちで、そこにいつものぼろいナイキのスポーツジャケットを羽織って出かけた。どうしても自転車で行きたかったのだ。たとえ帰り道、雨にふられても前輪がパンクしまくっても言った甲斐はあったような気がする。たまにこうやって外に出ないと勘が鈍る。ような気がする。なんの勘かは知らないけれど。
しかし、仕事でも文章やデータ入力などをしていると、キーボードを打つのがだんだん楽しくなってくるのだが、こうしてプライベートでもキーボードを叩いていると、そこに喜びを見いだしていいものかどうなのか、今ひとつよくわからない。
レインコートは着ているのでずぶぬれとまではいかないものの、革靴の中はすでにグッチャグチャになっていて、玄関に上がる前に玄関先でジャケットだの靴だのなんだのを一通り脱いでしまってから家に入った。家族がいるというのはいい。家に帰ると母親が風呂を沸かしておいてくれていた。こういうことがなによりもありがたいのである。僕は風呂に入った後、濡れたジャケットやコートやなんやかんやをまず風呂場で洗い流した。雨道を走ると、当然ながら泥だらけになる。正確に言うと泥というよりも、細かい砂や埃などが付く。そしてそれらは総じて黒い。アスファルトに付いたタイヤのかすや、削れたアスファルトそのものだ。
雨を洗い流したのはそう言ったチリや埃などのこともあるけれど、本音を言うと放射能が心配だったからだ。セシウムを含んだ雨が降っていると思った。たぶんそうだろう。まだガイガーカウンターも持っていないし、計測したわけじゃないからわからないけれど、相当量含まれているはずである。雨に濡れたものを全部水道水で洗い流し、僕はとりあえず人心地付いた。水道水が汚染されている可能性は考えない。そこまでいくと手に負えない。そんときゃあきらめるしかないだろう。
雨の中、前輪はきわめて頻繁に空気が抜けた。まただましだまし走って帰れるだろうかと甘い考えでいたのだけれどとんでもなかった。雨の中きわめて暫定的に、スポンタニアスにパンクし続けた。ポンプを持って来てたこと。レインコートを上下持って来ていたこと。そして都内だったことと、いつもの自転車屋が閉店ギリギリで間に合ったことを考えると、僕はいまだに自分がしぶといなと思うのである。いつもの自転車屋の兄ちゃんは僕が何度も何度もパンクし続けるんですと言うと、タイヤをひっぺがし、内側を指でまさぐっていった。半周ほどタイヤの内側をさすったところで彼の手が止まり、何やら毛抜きのような形をした工具を出して来て、何かをタイヤの外側から「ピッ」と引っこ抜いた。
「これですよ」
そう言って彼が僕の手のひらに乗せたのはホチキスの針ほどの鉄片だった。長さは3ミリ程度。「いつもゆーっくり抜けてってたでしょ?これですよ。触っても内側からだと少し膨らんでるかなーぐらいだからわからないんですよね」そう言うと新しいチューブを取り出した。プロの技なのである。
修理代金は高く付いたが、パンクの謎が解けたこと、雨の中、自転車で帰るめどがついたことを考えると安いものだった。お金を払った価値はあったと思う。がっちりと前輪をホールドしてくれる空気のチカラを感じながらおだやかな気持ちで徐行しつつ家まで帰った。やっぱり空気が入ってるっていい。
風呂に入り、ご飯を食べ、夜の洗濯を済ませ、僕はぼろ切れを持って自転車を拭きにいった。
前輪がまたパンクしていた。
soundscape
by itr-y
| 2011-12-07 00:39
| 日常