2012年 04月 13日
サプリメント |
帰って来てからぐったりと疲れてしまって1時過ぎまで眠ってしまった。いい加減に頭がぼんやりして痛くなって来たので起き上がる。昨日は本当に疲れた一日だった。
例のドイツ人の女の子を観光に連れて回っていたのだが、あまりにもわがままが多く、だんだんおたがいに不機嫌になっていったのであった。この間も食事に連れて行ったのだけれど、行った所がほとんど居酒屋で肉系の料理しかなく、ベジタリアンというほどではないけれど自然食指向の彼女にはストレスになっていたようだった、2日目はなんとかそう言う自然食系の店を探そうと思ったが見つからず、考えた挙げ句にそば屋に入り、春野菜の天ぷらだの、サラダだのを頼んでなんとかお茶を濁した。そんな店高いに決まっているのだ。でも海外から来たばかりの彼女にお金を払わせるのも嫌だったので、僕が払うからいいよと言って代金はすべて払った。
ベジタリアンじゃないとか言うわりには、飲み物はミネラルウォーターしか飲まないし、野菜とかリンゴとかグレープフルーツを自前で持って来て食べていたりする。きのうも水を買うために店に入ったら冷えていないお水はないのと言い出し、店の人に在庫をわざわざ持って来てもらった。炭酸入りのものが好きでないけれど、ドイツの水はゲロルシュタイナーのスパークリングしかなかったのである。彼女はそいつをジャブジャブと振り回し、時々ふたをあけてガス抜きをしながら今度は「サプリメントはどこで買えるの?」と言った。僕は薬局に連れて行き、サプリメントはありますかと店員さんに訊いた。
カルシウム、マグネシウムなどミネラル系のサプリが欲しかったようで、しばらく吟味しながら選んでいた。ビタミンCもついでに欲しかったようだったけれど、何やら成分表示を見て考えてこんでいた。
「これってなにか添加物とか入っているの?」
まあ何かしらの添加物が入っている事は考えられるけれど、彼女が考えているのがどういうサプリであるのかが僕にはわかりかねた。しばらく彼女の説明を聞いていたけれど、彼女のいう「ダメな添加物」というのが一体何を指しているのかがわからなかった。結局「じゃあ、いいわ」とビタミンCのプラスチックのビンを棚に戻し、僕らは美術館に向かった。
六本木の国立新美術館ではちょうどポール・セザンヌの展示がやっていて、二人でそこに入ったのだが、館内でいきなり彼女はデジタルカメラを取り出して絵の写真を撮っていた。僕は彼女に撮影禁止だと言うと「ふうん」と言う。セザンヌ展を出た後で彼女は「セザンヌは好きだけど、もう何度も観たわ、なにかもっと日本的なものはここにはないの?」と言い出した。他のフロアには行けないのかと言うのだけれど買ったチケットはセザンヌ展のみのもので、他の展示を見るには別料金がいる。それを聞いてまた少しいらいらした顔をする。
結局、隣でやっていた創元展の展示を観たのだが、興味深く観ているわりには退屈だったらしい。その間僕はそこの美術館の人に、なにかもっと日本的なものを展示している美術館はないですかと聞いたりしていた。そこでいくつか候補をしぼって、後で行こうと思ったのだけれど、数えるほどの作品しかなかったセザンヌ展とはうってかわって、日本中の画家の描いた膨大な量の絵画を前に二人ともぐったりしてしまっていた。こんなに絵を描いていったいどうするつもりなんだろう。てんでバラバラな手法と構成が神経を参らせた。
その後、彼女は東京タワーと増上寺を観に行きたいと言ったので、僕の美術館の情報収集は無駄になった。六本木から芝公園の方まで歩く。途中、公園お花見をしている人達のブルーシートを見て彼女が、「なぜあんな青いシートを使うの。醜いわ」と吐き捨てるように言った。「安いんだ。軽いし」と教える。彼女は「ふうん」と言う。
どんどん空気が悪くなっていった。僕は自分が何かいけない事でもしたのかと、ずっとあれこれ考えていた。思いつかなかった。あいかわらず彼女の英語は早口で僕の語学力ではついていけなかった。聞き返す度に彼女は疲れた顔をする。僕は自分の喉が鉛の筒のようになっていくのを感じた。
海外を旅するのは疲れる。だからこそ自分の体力や忍耐力とかを加味してやっていかなくてはならない。僕がドミトリーで他人と一緒に寝るのをけして選ばなかった理由は、そこにある。他人と一緒の部屋というのはそれだけで疲れるのだ。なおかつ食べ物の問題とコミュニケーションの問題は終わらない。そこに自分の求めるものがなければ別の場所に行くしかない。僕自身、あれはないのかこれはないのかと海外で質問した事はたくさんあったけれど、期待に応えてもらった事は少ない。もの自体が存在しないわけではない。ただ、それをこの国でなんと言うのかがわからない限りは伝わらないのである。だからこそ語学を学ばなければならない。それをしなければ文句を言う事さえままならないのだ。
「もう疲れた、帰るわ」の一言で僕は解放される。16日から京都に行くと言う彼女は夜行バスを予約したらしい。「じゃあまたそのうちにね」と言うと彼女は振り返る事もなく都営浅草線に乗って帰っていった。「夜行バス...か」。
彼女の体力と精神力が持ってくれる事を願ってやまない。
soundscape
by itr-y
| 2012-04-13 15:35
| 日常