2013年 06月 25日
未来から来た男 |
ひさしぶりに気を失った。電車の中だった。ふだん電車になんか乗らないのだけれど、その日は友人の舞台を観に行った帰りだった。ビールを4杯ほど飲んで帰途についたのだが、あとちょっとで駅というところで気分があまり良くないことに気づき、「あ、マズいかもしれないな、これは」と思った次の瞬間には意識を失っていたらしい。「大丈夫か!オイ!!」というKの声がし、さっきまで自分の目の前に座っていたサラリーマンがおびえたような表情でこっちを見ていた。周囲の人間も何事かとこっちを見ていたのだと思う。気を失ってなおそんなことを肌で感じている自分もなんだが、気がついたら脇の下にうでをまわされ、ちょうど停車した駅に彼の手によって引きずり降ろされた。引きずり降ろされながら僕はサラリーマンとその周囲の人間に対して少し腹を立てていた。そこはおびえるところじゃないだろ、助けるんだよ具合が悪い人がいたら。
大丈夫だといいながら僕は意識がもうろうとしていた。自分がどこにいるのかもよくわからなかった。かつていた時間に強制的に戻されたような気もした。「ああ、またここからか...」と思っていたのだけれど、じゃあ自分はいったいどこから来たのだろう。自分の意識がどこから来ているのか、不思議だった。
僕は時刻表の足下に座り込み、背中をもたれながらただはあはあと息をしていた。息をするのもめんどくさかった。放浪写真家Kは自販機で水を買って来てくれ、僕の背中あたりにどばどばとかけ、残りをくれた。そして彼のタオルを水に浸して持って来てくれた。「すまないね」と言ってそれを受け取った。
どこかの未来から今日の夜に戻った僕は、なんだか少しすっきりとしていた。よくある話だが未来から来た人間は自分がどこから来たのかよく覚えていない。ただここじゃないどこかであるというのは確かなのだ。
Mの舞台はすばらしかった。ひさしぶりに滅多にあわない地元の友人たちが集まって、みんなで舞台を見た後、近くの適当な居酒屋で終電まで飲んだ。そういやあの場で一番飲んでたのは僕だけだったな。あまり酒を飲まない友人が多いのである。最近、それはとてもよいことなのではないかと思うのだだけれど、ビールだけであんなに酔っぱらってしまうとは思わなかった。前日にウイスキーを半分空けるくらいまで飲んでいたのもよくなかったのかもしれない。体も堪えていたのだろう。とりあえず夏の一発目はそんなかんじとなってしまった。
帰り道、Kと何を話したのかはよく憶えていないのだが、大したことは話してなかったように思う。僕はこれから始めなければならないことを考えていた。自転車だって直さなきゃいけないし、バイクも直さなきゃいけない。なによりも手紙を書かなければいけない人がたくさんいる。会いに行かなければならない人もたくさんいる。
僕はかつていた時間に戻って来たわけだが、何かをかつていた未来から変えることが出来るのだろうか、とふと考えた。もともとどこから来たのかよく覚えていないのだから、変えるもなにもないわけだけど、なにかが少しだけよくなればいいなと考えた。
by itr-y
| 2013-06-25 03:20
| 日常