2006年 10月 26日
夜の散歩 |
夜。
いつものように家への道を歩いていると、ふと公園の方で何かが動く影が見えた。
何だろうと思ってよく見てみると犬だった。
しかし飼い主の姿は無く、ずるずるとひもを引きずっていた。
大方散歩の途中で放しているんだろう。
そう思ってしばらく見ていたけれど一向に飼い主が現れる気配はない。
不審に思って犬に近づいてみた。
柴犬だ。
まだ若い。
毛並みもいい。
彼は少し警戒しつつも恐る恐る近づいてはビクッとなって離れる。
そしてまた近づいてみてまたビクッとなって逃げる。
そんなことを何度か繰り返しているうちにようやく引きずっているひもを掴んだ。
奴は少し慌てながらもしきりに足下にじゃれついてくる。
「ハッハッハッハッ!!!」
「ちょ...落ち着け! コラ!」
なんだか知らないが慌てふためきつつもちょっと嬉しそうでもある。
まあ多分迷い犬だ。
散歩の途中で逃げ出したんだろう。
この辺りは一軒家も多いので、どこかその辺の家の飼い犬である可能性が高い。
しかしどこが彼の家だかわからないのでとりあえず交番に届けることにした。
ひもの輪っかに手を通し、ワン公を引っ張って行く。
いや正確には引っ張られて行く。
小さいわりに力は強く、ぐいぐいとひもを引っ張る。
こっちのことなんか委細構わず辺りの匂いをかぎまくる。
もう世界が面白くてしょうがないといった感じだ。
なんだかおかしくてしばらくは引っ張られるがままになっていたのだけれど、だんだんあっちこっち寄り道しては小便ばかりするのでそのうちこっちも強引にひもを引っ張るようになった。
ようやく交番にたどり着いたら誰もいなかった。
せっかく交番作っても誰もいないのでは意味がない。
僕は途方にくれ、
「どうしよっか...」
と彼に呟いた。
「しょうがねえからおまわりさんが帰ってくるまで二人で散歩すっか。」
「ハッハッハッ!!!!」
どうやら賛成みたいだ。
そんな訳で僕はゴン太(名付けた)をつれて夜のお散歩に出かけた。
ゴン太はまだ本当に子どもらしく、あっちこっちの匂いをかいではしきりに小便をひっかけている。
何もかもが嬉しいらしい。
ひもの輪っかにも好奇心がビンビン伝わってくる。
「あっ!?あれなんだ?」
「うわっ!クセっ!!」
「ナニコレナニコレ...」
あんまりぐいぐい引っ張り回すもんでこっちも適宜ビシッとひもを引っ張りたしなめるようにした。
時々そうしないと本当にあっちこっち行ってしまうのだ。
秒速で忘れるのである。
まあ子どもだから仕方が無いんだが...
あても無くふらふらと海まで行って、二人でぼんやりと対岸の灯りを眺め、それからまた戻って再び交番に行ってみる。
誰もいない。
「マジかよ...」
僕もいい加減に疲れてきていた。
仕方が無いのでゴン太をもと居た公園のブランコの柵にくくりつけ、一旦帰り夕飯を食べてから出直すことにする。
ゴン太は寂しそうな素振りも見せない。
1時間ほどで戻ってみるとなにやらブランコのところに人影があった。
飼い主の人かなと思って話しかけてみるとそうではなく、同じように犬がつなぎっぱなしで放ったらかされていたので不審に思ってしばらく様子を見ていたらしい。
「多分、僕の向かいの家の犬じゃないかとは思うんですけど。」
お兄さんはそう言った。
しかし訪ねようにももう深夜の一時を過ぎている。
やっぱり交番に預けようと言うことになり、三度、交番にいってみる。
お兄さんはこの辺りの一軒家の街の一角に済んでいるらしい。
しばらく世間話をしつつ歩いて行くと交番が見えた。
すると何やら交番から数台カブが出てきて、何やら出かけようとしている。
「マズい!!!!!」
僕とお兄さんは慌ててそのカブを追った。
「おまわりさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!!!!」
「マッテェェェェェェェェェェ!!!!!!!」
一生懸命走ったものの、三台のカブは僕らに気づかずに行ってしまった。
三人もいるのになんで一人も気づかないんだ!
日本警察の無能さを僕は呪った。
「マジで使えねえ....」
交番の前で僕とお兄さんとゴン太は三人で途方にくれていた。
正確に言うと途方に暮れていたのは僕とお兄さんだけで、ゴン太は耳の後ろなどをガリガリ掻いている。
「お前の為に奔走してるんだけどな...」
僕はお兄さんと協議し、一軒家住まいのお兄さんの家で今夜一晩だけゴン太を預かってもらうことにした。
お兄さんは家の前に来ると向かいの家を指差し、
「多分ここだと思うんですけどねえ...」
と言った。
この辺りはまだ越してきて間もない人が多いので、お互いのことをあまりよく知らないのだ。
ビバ、閉鎖社会。
それでは何かありましたらと言うことで、僕はお兄さんと連絡先を交換しその日は帰ることにした。
「じゃあまたなあゴン太!」
帰ろうとする僕について行こうとするゴン太とお兄さんに手を振ってようやく僕は家に帰った
by itr-y
| 2006-10-26 22:38
| 日常