2006年 12月 13日
嘆きのバッカス |
帰り道。
雨の降る中永代通りを急いでいると、木場のあたりのガソリンスタンドの交差点の前で路肩に停めてあるハザードのついたトラックが見えた。
何だろうと思って近づいてみると、後ろの方に何やらものが散乱しているのが見えた。
足下でパリンと音がした。
酒瓶だった。
今しがた起こったらしく、トラックの運転手とおぼしきおじさんがそのまわりであたふたと動いていた。
雨が降っているからなのかなんなのか、誰も片付けをしようとしない。
当のドライバーのおじさんも少し気が動転してるらしく、トラックと散乱した現場を行ったり来たりしていた。
こういう時は通りすがりの人が現場処理を手伝わなくてはいけない。
別に法律で決まっているわけではないけれど、そうしなければならない。
僕は自転車を降りた。
トラックからこぼれ落ちたケースは全部で10個前後で、ほとんどがビールと日本酒だった。
ひとつくらい割れずに無事なやつがあるんじゃないかと思ったけれど、律儀にすべてきちんと割れていた。
辺りには酒の匂いがたちこめている。
もったいないなあ。
僕が何も言わずに片付けをはじめると、角のガソリンスタンドからお兄ちゃんが清掃用のゴムの水切りを持って来て手伝ってくれた。
おじさんは慌てふためいていてこっちには何も言わない。
「応援呼んだ?来るって?」
お兄さんがおじさんに呼びかける。
おじさんは小さく
「.......来る、来る。」
と呟いた。
もう頭の中ではいろんなことが渦巻いているんだろう。
顔も何となく蒼白になっていた。
見てるだけで気の毒だ。
片付けているとトラックの方でまた「ガシャン!」と音がした。
おじさんが何やら荷台をいじっている。
ピサの斜塔よりも傾いたビールケースの壁が少し揺れた。
「うああ......こええ....」
お兄ちゃんが呟いた。
もうあんまり動かさない方がいいと思うけどなあ...
荷台のケースの山は、もうすでに一人でなんとかできるような状態ではなかった。
細いロープがピンピンになっている。
おじさんは何もいわずにお兄ちゃんから水切りを受け取って黙々と片付けている。
僕とお兄ちゃんと二人でやったのでもうほとんどビンはのこっていなかったのだが、細かいかけらをガシャガシャと集めていた。
僕はお兄ちゃんと顔を見合わせ
「お疲れっした」
と言った。
おじさんのがこれから対処しなければならないことを考えると、まあああした態度もしょうがないよね。
僕もお兄ちゃんもそこんとこは了解していたわけだ。
お礼に一升瓶をプレゼントしてくれるとかそんなことは全然なく、僕は雨の永代通りを急いだ。
少なくともこれからああいうトラックには近づかないようにしよう。
そう思った師走の夕暮れ。
by itr-y
| 2006-12-13 18:58
| 自転車