2006年 12月 14日
SMILE |
もう半分暗くなった中を、秋葉のラジオデパートまで寄ってみた。
入り口前の山長通商にて切らしていたハンダを買う。
そのまま何気なく中に入ると、桜屋電気が開いているのに気づいた。
ここしばらくの間、桜屋電気はずっとしまっていたのだ。
いつもいつも年中無休でやっている桜屋が長期間店を閉めていたので僕は何となく心配だったのだ。
ふと店の中をのぞくと、おじさんは他のお客さんと話をしていた。
「もう退院できたの?」
「うん」
「大変だったねえ。もう大丈夫なの?」
「いちおうね」
僕は横から口を挟んだ。
「入院なさってたんですか?」
「そう。腸をね、少し切ったんですよ。もうそんなに若くないからそれほど広がっていなかったけれどね」
なんとおじさん大腸がんだったらしい。
ガンで入院してそんなに早く退院できるものなのかなと思ったけれど、ガンにも進行度合いによっていろいろと段階というものがある。
すぐに退院できたというとは、幸いそれほどひどくはなかったのかもしれない。
しかし、あれほどまるっこくてつやつやしていたおじさんはすっかりやつれてしまい、顔色も青白くなって唇がやけに赤かった。
「....お痩せになりましたね。」
「はは...さすがにね。この年になるとね。」
さっきのお客さんはいつの間にか居なくなっていた。
「僕の祖父も以前に腸捻転で入院したんです。けっこうきつかったみたいですね。」
「そうですねえ、年取ってくるとねえ。」
おじさんは静かに言った。
なんだか他にかける言葉も見つからなかった。
それまでだってそんなに親しく話をしたことなんてなかったし、これ以上話をしても仕方がないような気がした。
「まあ、それじゃあ、お体お大事にしてください。」
「はい。ありがとうございます。」
おじさんはいつものような優しげな笑顔で笑った。
なんだかとてもとても静かな笑顔だった。
その後の買い物の間中、僕はなんとなくぼーっとしていた。
ぼんやりと可変抵抗をつまみ上げては元に戻し、必要もないノブをいじってみては棚に戻した。
気づいたら、要りもしないパーツをいくつか買っていた。
普段はあまり耳にしない音がしだいに大きくなりはじめた。
しばらくぶりだった。
渡らなくてもいい横断歩道を渡った。
もう暗くなった空から雨がぱらつきはじめていた。
by itr-y
| 2006-12-14 20:32
| 日常