2007年 02月 23日
水の記憶 |
昨日の夜から雨が降ったりやんだりしていて不安定な空模様が続いていた。
夜中、僕は雨の音に耳を澄ませて眠れないまま天井を眺めていた。
雨の音というのがとても好きだ。
川の音や波の音もいいけれど、夜に静かに降る暖かい雨ほどの心を落ち着けてくれるものはないと思う。
以前に僕が住んでいた家は僕の部屋だけがぽこっと外側に出ていて、半分離れのようになっていた。
部屋の上には屋根があり、二段ベッドで寝ていたので天井がすぐそこにあった。
コンクリに壁紙を貼っただけの質素な部屋だったけれど、雨の日に耳を澄ますとすぐ真上の屋根に雨のあたる音がして、僕はその音をずっと聴いていた。
時おり冷たい壁にそっと耳をあてて、すぐそこにあるはずの遠い遠い音を聞いていた。
その音はまるで何万年もの時を越えて聞こえてくる息吹のようでもあったし、母親の胎内の記憶のようでもあった。
その音を聞き続けることが、その頃の僕の仕事だった。
あれから屋根のある部屋には住んでいないけれども、それでもときどき外から聞こえてくる雨音や、風の匂いにふと顔を上げることがある。
コンポの電源を切り、パソコンの電源も落とす。
低いどこかの換気扇の音も、遠い街のうなり声も。同じ周波数の中に溶けてゆく。
じっと体を意識の中に沈めてゆく。
静かに。
静かに。
by itr-y
| 2007-02-23 18:13
| 日常