2011年 05月 10日
棚から落ちて来たもの |
朝起きて鏡をのぞいてみてみたら白髪が生えていた。
一本くらいならかまわないのだけれど、ふと見ると何本か生えている。どうもいちどきに生えたらしい。思い当たる節がある。しかし、今日ここでこの日を迎えることになろうとは思わなかった。ウチの家系はハゲではなく白髪になる。それもなり始めたらあっという間だ。
人間、いざとなると現実から目を背ける。僕は白髪を一本一本丁寧に抜き、机の上に並べてみた。確かに白髪である。きれいなくらい白く染まっている。染まっているというよりは色が抜け落ちた,という方が正しい。生気を失った毛髪は力なくそこに横たわった。
30才は節目の年である。誕生日にあの地震が起こってしまったこともそうだけど、父と母が僕をもうけたのもふたりが30の頃だった。だから結婚して子供をつくるなら30がひとつの目標だなと何とはなしにそう思っていたのだけれど、そんな兆しはまったくなく、むしろ自分一人の生活を維持していくのがやっとの有様である。人生うまくいかないもんだ。
父が白髪になったのはやはり30代で、僕が5才ぐらいの頃、つまり父が35を過ぎたあたりから父の頭には白髪が増えどんどん真っ白になっていった。子供から見ている分には貫禄がついて来て頼りがいがある(ようにみえる)しいいのではないかと思っていたけれど、たぶん本人としてはそうとう嫌だったんではないかと思う。後で思うとあの頃が一番父にとっても苦労の多い時期だったのだろう。自分でもしばらく社会に出て働いた経験があるので、彼の苦労がわかり始めて来た。あの性格でよくぞ子供を育てたと思う。そんな父を今ときどきいじらしく思う。
ここしばらくは特に何もしていない。そもそもドイツに来てからなんだか気力がついえてしまって、ほとんど何もしていないのだけれど、ドイツ語の勉強をあいかわらずちょこちょことやっている。ちょこちょこという表現がちょうどいい。カフェとかに行って、辞書や参考書に書いてあるフレーズを書き写したりしている程度だからだ。ガッツリ勉強という感じではない。
それでも今は例のタンデムのおばあさんの所にもっていくために、日記を書かなければいけない。でも肝心のそれをやっていない。そろそろ書かないと溜まって来ている。
それ以外ではもちろんほぼ毎日のようにバイトに行っているのだけれど、すこし状況が変わりそうな出来事があった。ビザを取れるようにするからウチでもう少し働かないかという申し出を受けたのだ。今まではバイトで週に3回しか行っていなかったのだけれど、それをもう少し入ってほしいとのことだった。願ってもない話なのだが、気になることがあった。
僕が今よりも長く働いたら、同じようにここでバイトをしている他の人たちはどうなるのか。
「彼らはどうするんだい?クビにするのかい?」と訊くと
「君は週に7日働きたいのかい?もう一人は必要だろうさ」
(そのレストランは無休)
と言う。
「もう一人って、○○さんはどうするの?」
「うーん...さあ、こういうことはどこでもあるしふつうのことさ。そうだろう?必要な人材を僕たちは必要としているし、そうでなかったらそれはしょうがない」
僕は歯切れの悪い返事を受けてこう返した。
「気持ちはありがたいけれどそれは出来ないよ。誰かの仕事を奪うことは出来ない。僕だって○○だって、他の人だってここの仕事を生活の糧にしているんだ。まして僕らみたいにワーホリできている人間に選択肢なんかない。他に選べないんだ。ドイツ語だってしゃべれないし、他にどこで働く?」
なんとなく嫌な感じを覚えた。
彼は僕より後に入ったくせにオーナーに気に入られて責任ある仕事を任されるようになった。他に人がいなかったからだ。マネージャーが辞めたのでその仕事も彼が受け持つことになったのだが、増長が見て取れた。悪い人間ではないのだ。ただ、お人好しでその上おっちょこちょいで、日本の感覚で言えば「仕事ができない」部類に入る。そんな彼の有様を見て僕は見かねて手伝ったりしていたのだけれど、それがよく働くと評価されたらしいのだ。
皮肉な話である。
彼の仕事は行き当たりばったりで、先を読むことが出来ない。接客業においては致命的とも言える弱点だ。そいつが責任ある仕事を任されることになったのだから、ここがいかにクズ揃いかは推して知るべしである。彼のことはキライじゃない。仲はわりといい方だ。だがこのオファーもすごく行き当たりばったりな臭いがぷんぷんする。はっきり言って当てにならない。
しかしもうひとり僕は決定権を握る人物にも好かれている。
そのレストランの名義上のオーナーである奥様だ。僕は昔から何かと年上の女性に受けがいいのだが、事実上のオーナーである人の奥さんに気に入られている。もうその話も通してあるらしく奥さんからも考えておいてねと言われた。本来、願ってもない話なのである。だって労働ビザがあれば仕事に就けるし、他に仕事にだってチャレンジできるチャンスがある。そして仕事を得れば、自分で部屋を借りることだって可能だろう。着の身着のままで来た去年の夏から今までずっと願っていたことでもある。
それはとてもいい話なのだ。
でも引っかかっているのは彼らが外国人であるということ。話が二転三転する。嘘をついているわけではない。自分の都合のいいように解釈し始めるのだ。これがドイツ人のみならず、外国人の特徴である。もちろん日本人でもそういう輩は多いのだが、はっきり言ってその比じゃない。そう言う人間と約束をするというのがどれだけリスキーなことか、ぼくはこっちに来てこのかたそれを痛感してきた。
奥さん自身はわりと信頼できる人なので、それが唯一信頼できそうな点だが、明らかに思いつき成り行きで出て来た話なので、当てには出来ない。でも自分の今の状況を考えるとすごく当てにしたい所もあり悩んでいる。悩んでもしょうがないことなのだが悩んでいる。悩んでもしょうがないことで悩むなよ、と思う。
というか、そうまでしてここに残るメリットがあるのか。
やっていることは少ない。
でも自分の力じゃどうにもならないことが多すぎて、それで空回りしている。どのみちなるようになるさ。と自分に言い聞かせる。
soundscape
by itr-y
| 2011-05-10 05:15
| ベルリン