2007年 03月 06日
秒速5センチメートル |
温い風が吹き荒れて、窓の外では雷までが鳴っている。
くすんだホットカーペットをひっぺがすように春が来ている感じがする。
一応それなりに冬だったわけだ。
冬が終わる街を雨が静かに濡らす
そんな一節を口ずさんでみたりする。
最近、新海誠の作品をいくつか観ていた。
ご存知、何でもかんでも一人で作ってしまうというアニメ監督さんなのだが、僕はこの人の二作目の作品、「雲の向こう、約束の場所」がけっこう好きだ。
デビュー作「ほしのこえ」は作画の質も低く、一人で作ったというところ以外には驚くべきようなところもなかったのだけれど、この二作目で僕はようやくこの新海監督のやりたかったことが少し見えてきた気がした。
以前にも紹介した「喪男の哲学史」の本田透氏の言葉を借りれば、この新海監督も明らかに喪男の範疇にあるだろう。
しかも相当なもんである。
あれだけの女々しい(最近はこの言葉もレッドランプだろうけど)ストーリーの作品を、自分の言葉と絵で映像化してしまうのだから、そのエネルギーたるや凄まじい。
大きな「喪」の力を感じる。
「水のない水槽」の歌詞からなんで新海誠の話になったかと言うと、今度の新海監督の劇場版作品「秒速5センチメートル」に、山崎まさよしの「Onemore time One more chance」が主題歌として使われているからだ。
なんで今またこの曲なのかなと山崎ファンとしては思うのだけれど、新海監督の作品を見ていれば何となくわかるような気もする。
喪男が好きそうな感じだ。
いつでもさがしているよ
どっかに君の姿を
明け方の街 桜木町で
こんなところに来るはずもないのに
願いがもしも叶うなら 今すぐ君のもとへ
出来ないことは もう何もない
すべてかけて抱きしめてみせるよ
山崎まさよし 「One more time,One more chance」
ファンとしてちょっと内心複雑なのは、この名曲をもう一度持ち出してきて売るのはどうなんだろうというところである。
スペシャルエディションとして新曲が入っているのはうれしいけれども、またこれをださなきゃいけないほど微妙な状況なんだろうかとも思ってしまう。
新海作品とのコラボはもちろんうれしいのだが。
この曲は僕個人としてもすごくすごく好きな曲なので大事にしておいて欲しかったという思いもある。
何せ何度も何度も弾いた曲なのだ。
「何かやって」
と言われて困ったら、こいつか「夜空ノムコウ」を弾けばまあまずOKである。
そのぐらい認知度の高い曲なのだ。
だからこの話を最初聞いた時は正直少し残念な気もした。
でもこの連作短編映画の第一話「桜花抄」を観てちょっと思い直した。
「けっこういいかもしれない」
秒速5センチメートルは3編の短編ストーリーからなる連作映画で、一人の男の子が成長していく姿を通して、そのまわりのキャラクターのストーリーを作っていっている。
平たく言えば青春恋愛ストーリーなのだが、新海作品のすごいところはやっぱり圧倒的にその作画だろう。
ひとつひとつのシーンの合間に情景描写が入り、繊細な絵と音楽が不思議な郷愁を誘う。
キャラクターの心理描写よりも、この風景描写がよく出来ていて、それが作品を通してひとつの連帯感を作り出している。
ストーリーそのものははっきり言ってありきたりなのだが、そうした事はあまり問題ではないように思えた。
それだけ作品自体の持つ空気感が圧倒的なのだ。
そこに「One more〜」である。
泣く子も黙るこのキラーチューンが作品の締めに流れる。
なるほど。
確かにこれで完結という感じだ。
たぶん新海監督の中では作品の完成のイメージがもう出来上がっていたのだろう。
さすが喪男。
残りの二編が渋谷シネマライズで上映されるということなので、ひさしぶりにこれはちょっと観に行ってみたいなと思った。
by itr-y
| 2007-03-06 18:57
| 日常